中国の一人あたりのGDP

英国の有力経済誌「エコノミスト」は2010年10月、仮に今後10年間の中国の年平均成長率が7.75%とした場合「2019年に米国を抜いて世界一位の経済大国になる」と予想しました。

同誌はその前提条件として米国の向こう10年間の年平均経済成長率が2.5%、年平均インフレ率は中国が4%に対し米国が1.5%、人民元の対ドル上昇率は年平均3%と設定していますが過去の実績を踏まえれば妥当な前提でしょう。

10年以内に米中経済の逆転が実現する可能性は高いということです。仮に2019年に米中が逆転しなかったとしても2020年代初めまでに両国の経済規模が肩を並べ、名実ともに米中が世界の「G2」(主要2ヵ国)として君臨する日がやって来るのは間違いありません。

ただし中国が米国のGDPに追い付いたとしても一人あたりのGDPで見れば相変わらず中国は先進国に肩を並べることができません。「エコノミスト」誌の予想に基づけば2019年の中国と米国のGDPは、それぞれ20兆ドル(約1,620兆円)前後となります。

米国の2010年時点の総人口は約3億人、中国は約13億人ですから仮に人口増加率がゼロだったとしても2019年時点の米国の一人あたりのGDPは6万6,000ドル(約540万円)、中国は1万5,385ドル(約125万円)と4倍以上の開きとなります。

仮に日本の経済成長がゼロで円が現在よりも対ドルで20%円安になったとしても2019年の日本の一人あたりのGDPは3万ドル以上になるはずですから、この時点でも中国の一人あたりGDPは日本の約2分の1ということです。

とはいえ米国と同じ経済規模の国が2つになることは世界経済に計り知れないインパクトをもたらすのも事実です。現在米国のGDPは世界の約30%を占めていますから中国経済が米国と肩を並べれば2つの国だけで世界経済の半分以上を牛耳ることになるわけです。

当然米国にとって中国はますます無視できない存在となり中国もその圧倒的な存在感を利用して米国や世界への発言を強めることになるでしょう。これは中国に隣接する日本にとっては決して無視することのできない変化です。

すでに日本経済は中国への輸出や中国市場における生産・販売活動を抜きにしては成長を維持できない状況に追い込まれています。少子・高齢化で日本の国内市場が縮小するとともに中国への依存度はますます高まることにな渇でしょう。

おのずと中国は日本に対して強気になり尖閣諸島問題や東シナ海ガス田問題、教科書問題などについて有無を言わせずゴリ押ししてくるようになるはずです。

しかし、どんなに経済が大きく成長しても中国には自分たちだけでは解決できない問題があります。代表的な例が深刻な環境汚染問題です。中国全土で大量に撒き散らされている汚染物質は国土と国民の健康を蝕み、経済成長を遂げれば遂げるほど国が再生不可能な状況に追い込まれるという矛盾をはらんでいます。

世界でも最先端の環境保護技術や省エネ技術を持つ日本ならそれを切り札に中国と対等に渡り合っていくことが可能だと思います。また、どんなに中国が世界経済にとってなくてはならない国になったとしても中国の異様な存在感の高まりを警戒する国は少なくありません。

南シナ海で領土問題を争う東南アジア諸国、新興国としての覇権争いを中国と繰り広げるインド、そして何より中国に雇用を奪われ、その輸出攻勢を受けて経常赤字に苦しむ米国。民主党政権は「日米同盟」の重要性をしっかりと認識し、日米を基軸に自由主義経済圏が一体となって中国に対して強固な包囲網を形成することを考えるべきでしょう。

一方で中国の一人あたりGDPが1万5,000ドルを突破すると中国の内政にも大きな変化が起きることが予想されます。一人あたりのGDPが1万5,000ドル前後というのは今日の韓国や台湾、スロバキア、サウジアラビアとほぼ同じ水準です。一般に一人あたりのGDPが1万ドルを超えると、その国の体制は独裁専制から民主体制に移行しやすいと言われています。

一人あたりのGDPが3,000ドルを超えると(現在の中国の水準)少なくとも食事がお腹いっぱいに食べられるようになり、物質的にも多少豊かになるので国民はそれなりに満足します。

しかし一人あたりのGDPが1万ドルを超えて衣食住が満ち足りてくると人々の意識は社会矛盾への怒りに向けられるようになってきます。軍事独裁政権から民主政権へと移行した韓国や国民党の一党独裁体制を直接選挙制度の導入によって打破した台湾がそのいい例です。

— posted by チャパティー at 05:48 pm