米中のパワーバランスはどう変化するか?

少なくとも民主活動家の拘置や軟禁などに代表される中国の人権問題が習の在任期間中に大きく改善されることはないと思われます。また習近平は2009年7月の新疆ウイグル自治区における大暴動の際、その弾圧を指示した張本人だったと言われています。

当時イタリアで開催されていた主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)に出席中の胡錦濤に代わって軍部に深いパイプを持つ習が人民解放軍や武装警察などを総動員して徹底的な弾圧を行ったようです。

習が自ら政権を掌握した後はチベットやウイグルなどの民族独立運動に対してますます強硬な態度で臨むことが予想されます。もし実際にそうなった場合、人権問題や民族問題で中国を強く批判している欧米諸国との溝はさらに深まることでしょう。

1991年のソ連崩壊で冷戦が終了して以来、政治、経済、軍事のすべてにおいて「唯一の超大国」である米国が世界を主導する時代が20年も続いてきました。世界の約3分の1を占める巨大な個人消費力を持った米国が多くの国々から製品を輸入することによってそれぞれの国の生産活動が活発化し、世界全体の経済が成長する。

これが2008年に「リーマン・ショツク」が起きるまでの構図でした。「唯一の超大国」である米国が世界経済全体を回していたのです。しかし「リーマン・ショツク」の発生以来、米国は2年以上にわたって長引く不況、高止まりする失業率に苦しんでいます。

そのうえ米国は景気刺激のために巨額の財政出動や大幅金融緩和を繰り返しており、ただでさえ膨大な財政赤字がますます拡大することが懸念されてドル相場は下落。諸外国の米国債売りも徐々に加速しています。

いまだに米国が世界経済の中心にあることには変わりありませんが、その影響力はドルや米国債への信頼の低下とともに少しずつ失われているのです。一方で米国は20001年からのアフガニスタン紛争、2003三年からのイラク戦争などに膨大な戦力と軍事費を集中的に投入し、他の国や地域の紛争にはとても手が回らない状況が続いています。

たとえば北朝鮮の核問題に対して米国が本腰を入れた対応ができないのもアフガンなどほかの国々への対処で手いっぱいだからです。そのため北朝鮮問題については米国の代わりに中国が「6ヵ国協議」(北朝鮮・韓国・日本・中国・米国・ロシアの六力国が北朝鮮の核開発問題などについて話し合う会議)を議長国の立場で開催し、解決を図ろうとしています。

「本来であれば北朝鮮の友邦である中国に主導権は握らせたくない」というのが米国の本音なのですが、影響力を行使しようにも余力がないのですから致し方ありません。

この問題に象徴されるように経済だけでなく軍事、そして政治の世界においても米国の存在感の低下と中国のプレゼンスの拡大が年を追うごとに明らかになってきています。パワーバランスの変化とともに今後ますます世界に対する米国の発言力は弱まり、逆に中国の発言力はどんどん強まっていくことになるでしょう。

中国はこれまでどちらかと言えば米国からの要求や批判に対して受け入れられるものは受け入れ、譲るべきところは譲るといったようにあまり波風を立てずにやり過ごしてきた経緯があります。

これは郵小平が1990年代に掲げた「垢光養晦」(自らの能力を隠して外に出さない)という戦略に基づくものです。これは「相手に遠慮する」などといった謙譲の美徳ではなく、あくまで「相手を油断させる」ための戦略であると捉えるべきでしょう。

中国は「改革・開放」以来、安い製品を海外に輸出して経済成長を果たしてきましたが、その製品をもっとも多く購入してきたのは米国でした。つまり中国の経済発展は米国の繁栄によって支えられてきた側面があるわけです。

しかし米国は今後、消費一辺倒ではなく輸出に力を入れることで経済を立て直そうとしています。その米国製品をもっとも大量に買ってくれそうな国と言えば14億の人口を抱える中国以外にありません。

中国が米国に支えられた時代から逆に米国が中国に支えられる時代へと移り変わろうとしています。さらに米国は巨額の財政赤字を抱えていますが、その借金をもっとも肩代わりしているのも中国です。

— posted by チャパティー at 05:08 pm