アジアで中国の地域覇権を容認する

中国は従来、アデン湾の奥にあるジブチの港のフランス軍基地を借りて補給をしていたが、今後は周辺に独自の補給港を基地として借りたいとも表明している。中国は米欧の承認を得てインド洋に海軍基地を持とうとしているわけだ。

すでに中国はインド洋の諸島国モルディブのマラオ島に航路管理用の基地を1999年から持っており、インドは以前からこれが中国の潜水艦基地に発展すると疑っている。

インド洋地域で最大の国はインドである。中国はインド洋地域の国ですらない。中国とインドはいずれも2008年秋からソマリア沖の海賊退治に参加し、派遣している軍艦は2隻ずつである。

遠方から来ている中国勢は補給艦―隻を入れて合計3隻だが戦力としてはインドと同じ2隻。中国海軍は387隻の艦隊を持ち、155隻を持つインド海軍より大きいが中国は空母を持っていない。インドは英国から譲渡された古い空母を持っている。

全体として中国がインドより海軍力ではるかに勝っているわけではない。それなのに世界の主要国がすべて参加している海賊退治連合軍SHADEの中で欧米と並ぶ主導役として選ばれたのは近くの親米的なインドではなく遠くの反米的な中国だった。

このことから「米国の中枢にいる人々は中国を怒らせ、脅威を感じさせて米国に対抗して軍事拡大する方向に引っぱり出し、世界を多極化したい」という流れが感じられる。

この傾向は近年の米国の外交戦略のあちこちに見え隠れしているが断片的にしか報じられないので国際情勢を丹念に見ている人以外には「とんでも話」に見えるだろう。

中国がインド洋に進出しようと考えたこと自体、米国による「引っぱり出し作戦」に引っかかった結果だったとも考えられる。日本も中国も中東から原油やガスを買い、インド洋にタンカーを航行してエネルギーを輸入している。

日本のような対米従属の国は米軍がインド洋を守っているので自国の軍隊をインド洋に出さなくても航路(シーレーン)が守られているが中国は違う。

米国は1989年の天安門事件以来、中国を「倒すべき敵ではないが、同盟相手でもない」という宙ぶらりんの地位に置いている。米国は中国に巨額の米国債を買ってもらう半面、2007年にはインド、日本、豪州、東南アジア諸国を誘って「中国包囲網」を形成するかのような軍事演習を行うなど隠然と中国を敵視する気配を見せている。

この微妙な関係の中で中国は中東から原油を輸入し、欧州に工業製品を輸出するために通らねばならないインド洋の航路を米国に頼らず自国の軍事力で守らねばならない立場に置かれている。

中国包囲網は冷戦時代にも形成されていたが当時の中国は海路を使った輸出やエネルギー輸入によって経済成長している今とは全く異なる内向的な「自力更生」の戦略をとっており、海外航路の確保は重要ではなかった。

2007年当時、日本は自民党の安倍政権で米国が日豪インドと組んで中国包囲網を形成するかのような動きを見て「この先何十年も対米従属を維持できる」と大歓迎した。

しかしその後、中国が台頭すると米国はその分譲歩してアジアで中国の地域覇権を容認し、世界の多極化を進めてしまった。

結局、米国が日豪インドを誘って中国包囲網を形成するかに見えた動きは米国が中国に脅威を感じさせ、中国が朝鮮半島や東南アジア、インド洋での自国の影響力を拡大し、中国が出てきた分だけ米国が引っ込む「隠れ多極主義」の戦略であり、日本やインドはそれに乗せられていた観がある。

米軍はいずれ沖縄や韓国から出てグアム以東に引っ込む。インド洋の西のソマリア沖では欧米と中国が対等な立場で航路を守るSHADEの体制ができる。今後出現しそうな新世界秩序において米国の影響圏の西端はグアム島で、そこからスエズ運河までが中国の影響圏になりかねない。

— posted by チャパティー at 05:49 pm