国際平和維持に寄与する

私は中東とキプロスの国連軍の現場を調査してまわったことがありますが、もっとも印象に残っているのはキプロスにいる国連軍でした。シナイ半島やゴラン高原の国連軍はほとんど無人の砂漠や山地で、停戦ラインの監視やパトロールにあたっており、あまり現地住民との接触のない環境にいました。

ところがキプロスの場合にはトルコ系住民とギリシャ系住民との居住地の境界線に駐留している。この駐留地帯は狭いところは都市を走り抜けた5、6メートルぐらいの幅しかないベルトで住民が近くに多数居住している。

幅の広いところですと1キロとか2キロぐらい離れていますが広いところでも駐留地帯の土地には農民がいる。このように両方の現住民が接近している以上、小規模の紛争や撃ち合いがたえず起こる。

そういう状況で少数の兵士で不断に緊張を下げておくためには国連軍の兵士は現地の社会構造、文化、政治組織などをよく知っていて、とっさの判断で小ぜり合いや撃ち合いを鎮静することが必要です。

それから双方とのコミュニケーションを日常的によくするために時に、それぞれの側の部隊の責任者と食事をしたり兵隊同士で一緒にスポーツをやったりして人間的接触を保ち双方の間に立って調停者の機能をはたせるような訓練を1人1人の兵隊が受けていることが望ましい。

つまり異質の文化体系をもった対立する社会や集団をどうして共存させるか、その知恵と技術を備えている必要がある。武器はライフル一挺しか持っていないのですから軍事力によらずに秩序を維持する能力が要求されるわけです。

そうした現地住民との接触に加えていろいろな国からきた兵隊が地域を分担しながら協力することになるので、その点でも、異質の文化の人々と共同作業をする訓練をうけておかなければいけない。

生活水準や生活様式のちがう兵員が国連軍内でも平和的に共存し協力することが必要なのです。このように内と外とでの異文化集団の協調を可能にするにはいわば「国際人」としての訓練が不可欠です。

そこで日本に国連待機軍をおく場合、海空の警備隊とは別に個人として応募する兵員に特別の訓練を行い、待機させる。その数は1~2万名ぐらいでしょう。

そして常時日本にプールしておく。それは外に派遣されていることもあれば、日本で待機していることもある。この待機軍には3つの機能が与えられます。

第一は国連平和維持軍として勤務し国際平和維持に寄与することです。第二はこの待機軍の本隊が日本におり、一部が海外に派遣されても他は日本に残留しているときに、もし仮に外国が攻撃を仕掛けてきた場合には待機軍は軍事的には軽武装で弱体であっても抵抗し、侵入軍はとにかくそれを排除しなければならない。その時には犠牲者が出ることがあるかもしれない。しかしそれは国際的な問題になります。

日頃から日本の待機軍が国連軍の一員として紛争地域で平和維持活動の実績を積み重ねていれば、日本に残留する部隊は厳密にはまだ国連軍ではないにしろ、その安否は国際的な注意をひくことでしょう。

ですからそれは侵入者にとって軍事的ではないかもしれないが、政治的に厄介な問題を引き起こすようなそういう意味の政治的抑止の機能をもつ。それがさっき述べた非対称防衛の特徴なのです。そして第三に、待機軍での訓練は一般的に日本人の「国際化」に役立つだけでなく非武装に近い組織要員の訓練は次に述べる市民防衛のリーダーの養成にも寄与すると思います。

— posted by チャパティー at 05:56 pm